インターネットの備忘録

インターネット大好きな会社員がまじめにつける備忘録です。

気持ちなんてすぐに消えてしまう

「オールド・テロリスト」を読んだので、同じ主人公の「希望の国エクソダス」を読み返しています。

希望の国のエクソダス

希望の国のエクソダス

 

 文庫もあるけどこっちの表紙のほうが好きです。

 同じ主人公、セキグチの目線で描かれている両作ですが、「オールド・テロリスト」が謎の老人集団を描いているのとは逆に、「希望の国エクソダス」では不登校になった中学生たちが社会システムを自分たちの手で変えていく様子が描かれています。

読み比べて思ったんですが、「オールド・テロリスト」で老人集団は社会システムを破壊し「日本を焼け野原に戻そう」としている反面、「希望の国エクソダス」では、子供たちが「日本を自分たちで作り変えていく」んですね。破壊と創生、この世界でさらに長い時間を生きていかなければいけないのは子供たちなわけで、静かな怒りでただ日本を壊そうとする老人たちと、これから生きていくためのシステムに作り変える前提で破壊をする子供たち、という感じが対照的で面白いなと思いました。

 この物語は、冒頭で日本人少年がパキスタン北西部・アフガニスタン国境付近で地雷により負傷した、というニュースをきっかけに、主人公セキグチがパキスタンへ取材に向かうシーンから始まります。少年は「君は日本人か?」と問われると「以前は日本人だった」と答え、「あの国には何もない、もはや死んだ国だ」と語ります。そして「日本語をしゃべってくれ」と頼まれるとナマムギ・ナマゴメ・ナマタマゴとCNNの記者を馬鹿にしたような態度をとり、話題をさらいます。

序盤、主人公であるセキグチは取材でパキスタンに向かう道中、親に黙ってパキスタンに向かおうとする不登校児、ナカムラくんと出会います。ナカムラくんはニュースを見て何かを感じ、日本人少年「ナマムギ」のいるパキスタンに向かおうとしていたのですが、彼が語ったこの言葉が印象的でした。

「二年生のときからの友達だったんですけど、ぼくもシカトしたし、なんかひどいことをしたんだな、と思って、学校へ行くじゃないですか。すると、みんなそいつのことは忘れたみたいな、いやな感じで、でも、ぼくも、そいつのことをあまり考えたくなくて、他の友達とも話したりはしませんでした。それで、そいつが転校してから、しばらくの間、夜になると、そいつが家に来るんじゃないかって、そういうことを考えると恐くなってきて。すごく恐かったんですよ。でも、すぐに恐くなくなって、ちょっと時間がたつと何てことなくて、昔、薄味になってしかも二倍の量が飲めるってことでダイエットコークを水で割って飲むのが流行ったことがあるんだけど、そんな感じで、そいつのことが薄まっていくのがわかるんですよ。忘れちゃいけないことだって思っていても、時間がたつとどんどん薄まっていって、きっとナマムギのことだって、ああやって薄まっていくんだなと思ったら、じゃあ、薄まっていかないことなんて世の中にはないんじゃないかと思って、そういう感じで死んでいくのかなっていうか、逆に恐くなって。」(P.51)

希望の国のエクソダス (文春文庫)

希望の国のエクソダス (文春文庫)

 

 

 これは友達がイジメにあって自殺未遂をしたあと学校を移っていった話をもとにナカムラくんが語るエピソードです。村上龍はこれと似たようなことを「ラブ&ポップ」という作品でも描いていて、印象に残っています。何かに触れて、気持ちが動いた瞬間を見逃さずに、しっかりつかまえていかないと、どんなことだってきっとすべて薄まっていってしまう。

それがもし自分にとって本当に大切なことや、手を放してはいけないことだとしても、これを手放したらいけないぞという意志でキープしておかないと、どんなことでも思ったより簡単に手の中から逃げていってしまうんじゃないか、ということを考えます。

本当に大切なことを失ったとしても、じゅうぶん平和に生きてはいけるのかもしれないけど、それって何のために生きているのか、何をするために死なないでいるのか、がわからなくなりそうで、自分は本当にそれで後悔しないのか、というのを、常に自問自答していきたいなと思ったのでした。

 

今日はそんな感じです。

チャオ!

ラブ&ポップ―トパーズ〈2〉 (幻冬舎文庫)

ラブ&ポップ―トパーズ〈2〉 (幻冬舎文庫)

 

 「ラブ&ポップ」は援助交際を題材にした小説で「トパーズ」シリーズ?というか、その一連の作品の中では刹那的な欲望を描いている様子がとくに際立っている印象でした。庵野秀明監督で映画にもなりましたね。 

ラブ&ポップ SR版 [DVD]

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