インターネットの備忘録

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人生はドッキリか?/悪い芝居「罠々」観てきた

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2017年4月21日と24日、東京芸術劇場にて。

昨年秋の悪い芝居リインカーネーション「春よ行くな、」以来、本公演は、「メロメロたち」ぶりです。


悪い芝居新作本公演vol.19『罠々』トレーラー第一弾 ~邂逅~


悪い芝居新作本公演vol.19『罠々』 トレーラー第二弾 〜線引〜


悪い芝居新作本公演vol.19『罠々』トレーラー第三弾 ~視線の向こう~

悪い芝居vol.19『罠々』 - 特設サイト

今回の主人公は、自分の人生がうまくいかないのは、罠にはめられているからだ、と言う。仕事がうまくいかず、婚約者にも振られ、明日の朝、電車に飛び込んで死のうと決めた前夜、新宿でしたたかに酔って出会った女に「わたしたちは神様の罠にはめられているの」と言われ復讐を決意する。そして地元に帰ってきた主人公は幼なじみと再会し……。というのがメインのあらすじ(たぶん)で、そこに不発のYouTuberと、彼が見つけてYouTuberに仕立てようとしている孤児の女の子、鳴かず飛ばずのお笑い芸人と元相方の話、がサブストーリーとして展開し、絡み合っていく。

主人公である羽尾朝彦(ハネオ)は、幼なじみとの記憶を忘れている。結婚したばかりの道草蕾(ツボミ)は、初めて付き合った相手であり地元を捨てたハネオのことを愛憎入り混じって素直に受け入れることができない。彼ら2人といつもつるんでいた壺見求一郎(キュウイチロウ)は、17年ぶりに再会した親友・ハネオの妄想ともとれる言い分を、なんとか信じようとする。

全員がすれ違ってて一方通行で、双方がガチッと手と手を取り合っているという人たちが出てこない。だからといって全員がそっぽを向いているわけではなく、懸命に誰かや何かを追い求めているのに、それが叶うことはない。明るくてドタバタして、なんだかバカバカしいのに、とてもさみしく、とてもこわい物語でした。

気になったのは

  • 「神」とは何なのか?
  • 「罠」とは何なのか?
  • 「カメラ」とは何だったのか?
  • 気が狂っていたのは誰だったのか?
  • 真実を知ることは、本当に幸せなのか?

あたり。

今回の登場人物であるYouTuberや、人生なにもかもうまくいかないからと復讐をしに地元に帰ってきた主人公を見ていると「将来、誰でも15分は世界的な有名人になれるだろう。」というアンディ・ウォーホルの言葉を思い出しました。インターネットや自分を発信するプラットフォームの拡張で、誰しもが一瞬だけ有名人になれる可能性がある現代ですが、でもそれはたった15分だけで、そしてその15分のために、劇中で何度も繰り返し出て来る「白い線から落ちてしまう」ように、人生がだめになってしまうこともあるわけです。それは「有名人になるためのたった15分」だけではなく、「たった一瞬のために自分の人生を棒に振る」という意味では、「自分の恨みを晴らす」も同じなのだろうと思いました。

「人生はドッキリだ」「隠しカメラの存在に気付いてしまったら、人生お蔵入りや」など、今回もキャッチーでドキッとする台詞が多く、誰もが発信者(配信者)になれると同時に、幾百の人の人生の傍観者・目撃者になることもできる環境で、わたしたちは何を信じ、何を疑えばいいのか、という疑問と、そしてその疑問を放置しておいたら、いつか大変なことになってしまうのでは、という不安、なんだか大きな時限爆弾を手渡された気分です。

21日のアフタートークで山崎彬さんが「バンドはもう飽きてしまった」と言っていて、お芝居とバンドが融合している悪い芝居が好きでそれしか知らなかったわたしはややショックを受けたのですが、今後も追いかけたいと思いました。

しかし今回は難しかった……。ただその分、観終えたあとの感想がとりとめもなく連想されていくので、脳みそのいろんな部分を刺激された体験でした。楽しかったです。次の公演も楽しみ。

悪い芝居 Official Site

今日はそんな感じです。
チャオ!

ひとりの男の登場で、わたしの季節が区切られていく

 という台詞を何かの小説で読んだ気がするのだが、なんの本だったのかはすっかり忘れた。
ただそれを読んだときの感覚だけははっきりと覚えていて、それはわたしも同じように感じたことがあるからだ。男に限らず、音楽でも映画でも演劇でも、それを知る前と知った後のわたしは、決定的に違う。知ってしまったら知らなかった頃には戻れないし、知らなかった頃には知ることで自分がどう変わるかなんて、想像もつかなかった。

 

「悪い芝居」という、京都を拠点として活動する劇団がいる。
それまでまったく演劇に親しんでこなかったが、信頼できるある人のおすすめをきっかけに初観劇と至ったのだけれども、彼ら、もっというと、主宰の山崎彬さんとの出会いが、わたしの季節をはっきりと区切ってしまった。

 そんな彼らの最新本公演「メロメロたち」を観た。

悪い芝居vol.18『メロメロたち』 - 特設サイト

赤坂レッドシアターは今年で3回めで、仕事以外の用事で赤坂に足を運ぶ機会があるなんて思ってもみなかった。悪い芝居は演者が楽器を持って演奏し歌うスタイルなので、歌う場面と芝居の場面がシームレスだ。なのでギターなど演者自身が持ち運べるもの以外は常にステージ上に楽器が設置されているのだけど、今回の「メロメロたち」はその中でも特にドラムセットが前面に配置されていた。それは劇場に入った瞬間にわかったので、あれ、いつもとちょっと違うぞ、と思いながら席についた。

客電がまだついていて、人の出入りもあるタイミングで演者の一人がステージに上がり、ドラムセットに座る。え、何かのパフォーマンスかな、と思う。そういえば初めて観た「スーパーふぃクション」でも、劇場スタッフの開演前案内かと思ったらすでにお芝居が始まっていたという演出があり、そういう感じかな、と思っていた。

ところが客電もついたままの状態で、最初の一音が鳴り、刺さった。打楽器特有の鋭い音で、身体が震えた。というか、しびれた。全身の筋肉がバチンと硬直して、一気に引きこまれた。戦時下の中学生。戦闘訓練。少女ふたりが銃を持ってステージを走り回り、その中に強烈な輝度をもった日常があわられる。水筒のお茶、ビビッドな色のリュックサック、細い首に不似合いなヘッドフォン、ふたつに結わいた髪の毛、ひらり翻る制服のスカート、素直になれない、下品なことばかり言う男子、大きなケースをつけたスマホ、意味も理由もない電話と会話、ふたりだけにしか分からないお約束、これだけあれば、きみだけいれば、それでいいのに、それでいいのに、という熱望と、好きすぎて好きすぎて、いっそ殺してしまいたいという激情。
そんなふうにして、ある少女ふたりの恋にも似た友情が展開され、場面は切り替わる。少女のひとりが夢中になっている、ある伝説的バンド、「メロメロ」。最初の一音を叩いたのは、そのドラマーだった。解散してしまったバンド「メロメロ」のドラムであった彼と、彼のもとに日参する音楽ライターのやりとりから、バンドの物語が広がってゆく。

内戦激しい日本国内を舞台にして、バンドと少女たちの物語は近づいては離れ、また近づき、あるとき交錯する。巨大な破壊の中で死が少女とバンドのボーカルを結びつけ、物語は次の展開へ進む。少女の銃弾がバンドのボーカルを撃ちぬいて、バンドのボーカルは全身を火に包まれた。なんという不幸。でもここからがわたしの好きな悪い芝居で、ものすごいスピードで価値観が表・裏、べろんべろんとひっくり返され続け、混乱に巻き込まれていきながらも、その最中、常に愛情と肯定が絶え間なく、バケツいっぱいの水を浴びせられ続けるように劇場内へ満ちていき、わたしたちはその中に浸される。
浴びせられ続ける愛情と肯定に涙が止まらないまま、物語は終焉を迎える。その過程で繰り返し繰り返し発せられる言葉、「ライフ・イズ・ラブリー」。ビューティフル、ではなくラブリー、Love-ly、なところが胸に刺さった。

美しくなくていい、人生はただ、かわいいのだ。
それで、いいのだ。

主宰であり作・演出である山崎彬さんの存在につきた。全員が魅力的だったけれども(NMB48石塚朱莉さんの鋭利な愛くるしさは、ものすごかった!)、彼が舞台に出てきた瞬間、全身の神経が彼を指し示して動かなくなる感じがあった。ものすごい輝きと、虚無があった。

ある人に「カリスマにはある種の虚無があって、ブラックホールみたいに、いろんな人を吸い込んでいっちゃうんですよ」と教えられたことがある。まさにブラックホールのように、ぜんぶを吸い込んで吸い尽くしてしまうように彼はそこにいた。そして同じだけの膨大な愛情と肯定を、わたしたちに与え続けてくれていた。底があまりにも見えなくて、それがこわくてこわくて、震えるほどだった。

 

そんなふうにして客電がついて、千秋楽というラッキーなタイミングなこともあり、舞台からの自撮りに観客席から参加をした。泣きはらした目の化粧を直すこともできず、まだ陽がでていて生ぬるい赤坂の街に押し出された。人と会う約束があったけれど、どうしようもならなくて近場のファストフードに入り、冷たいアイスティーを頼んで飲んだ。どこにでもあるお店のどこにでもあるアイスティーは、うすいレモンの味がして、愛すべき日常がそこにはあった。わたしの中でまたひとつなにかが区切られ、人を待つ間、呆然と赤坂の街を眺めていた。

 

わたしの人生の季節は、山崎彬さんの登場によって区切られてしまった。
より多くの人がこちら側にくればいいのに、と思っている。

 

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タイトル、ブコメで教えてもらいました。ありがとうございます!

愛情生活

愛情生活

 

 

「求められたい」と願う醜さ/「必要とされている、と思う病気」観てきた

観てきました。

箱庭円舞曲第二十一楽章「必要とされている、と思う病気」

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箱庭円舞曲「必要とされている、と思う病気」初日~2/15分 - Togetterまとめ

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「さみしさ」の輪郭を忘れない/「夏目漱石とねこ」観てきた

観てきました。

土曜の夜を観たあと、居てもたってもいられなくなって、千秋楽も当日券で。お芝居って今まで全然経験がなくて、どうやって公演情報を得るのか、どうやってチケット取るのかも分からない状態で、おっかなびっくり臨みましたが、飛び込んでみて、ほんとうによかった。

今回は、もともとズイショさんが書いていた悪い芝居「スーパーふぃクション」の感想文から、「悪い芝居」を知って、観に行って、震えるほどハマって、「スーパーふぃクション」に出演されていた渡邉りょうさんが出る、というのがきっかけ。

次回公演:DULL-COLORED POP vol.15『夏目漱石とねこ』

【鑑賞眼】知られざる素顔を自分に重ねて DULL-COLORED POP「夏目漱石とねこ」(1/2ページ) - 産経ニュース

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世界はリバーシブル/悪い芝居『スーパーふぃクション』感想文

この記事を読んで、チケットを取ってあった悪い芝居『スーパーふぃクション』見てきましたので感想。


悪い芝居『スーパーふぃクション』感想文 - ←ズイショ→


悪い芝居vol.16『スーパーふぃクション』 特設サイト

 

演劇には今まであまり縁がなくて、実際行ったら楽しいんだろうな〜でも何から見ればいいんだろうな〜と思っていたところ、ズイショさんの記事を見たのでチケットを押さえました。

10月は本当に忙しくて忙しくて、気がついたら公演当日だったわけですが、赤坂見附の駅に降り立って、劇場の席に座っても、疲れがぜんぜん抜けてなくて本当に眠くて眠くて、開演まで目をつぶってうつらうつらしていたのですが、始まった瞬間一気に目が覚めた。

席は前から3列目の真ん中で、しかも想像より近くて、えっこんな近かったら演者さんと目とか合うんじゃないのとかウッカリ寝ちゃったらすげえ気まずいじゃんとか思ってたんですがまったく杞憂でした。あっという間の2時間45分。

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