久しぶりに読み返した本と、最近読み終えた本が、なんとなくリンクしているような気がしたので備忘。
2年ほど前に読み終えていたこちらと、
わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書)
- 作者: 平田オリザ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/12/17
- メディア: Kindle版
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こちらが最近読んだ本。
- 作者: アスク・ヒューマン・ケア研修相談室
- 出版社/メーカー: アスク・ヒューマン・ケア
- 発売日: 1997/03/01
- メディア: 単行本
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どちらも面白かったです。
書籍自体の内容については「興味を感じたなら読んでおいて絶対に損しないと思います」 という感じで横に置いておいて、両方を読み終えた感想を。共通点として印象に残ったのは「演じる」ということについて。
その前に、タイトルにある「アダルト・チャイルド」について簡単に記しておくと、もともとはアメリカで「アルコール依存症の親のもとで育った人(チャイルド・オブ・アルコホリクス)」をあらわした言葉で、そういう子供が大人になったとき、生きづらさや不自由さを抱えることが多く話題になったそうです。「アダルトチルドレン」とも言うみたいですね。「アダルト・チャイルドが自分と向きあう本」では、そういった環境で育った人が自分の問題と向きあい乗り越えるためのワークブックとして、いくつかのワークが紹介されています。
その6章、「私を縛る鎖」にこう書かれています。
家族の緊張した関係の中で、子どもたちはありのままの自分を出すことを恐れるようになります。「自分はここにいてよいのだろうか」と不安を感じ、家族の中に居場所を見つけるために、小さいときから周囲の状況に合わせた役割を演じることを覚えます。
「アダルト・チャイルドが自分と向きあう本」(P.64)
演じる役割が以下のように分類されているのですが、
- ヒーロー/スーパーチャイルド<優等生/家族の誇り>
- スケープゴート<問題児/いけにえ>
- ロスト・チャイルド<いないふり/忘れられた子/仲間はずれ>
- クラウン/マスコット/ファミリー・ペット<道化師/甘えっ子>
- ケアテイカー/プラケイター<お世話やき/なだめ役>
問題を抱えた家庭の中で、子供は自分の居場所を作るために、こういった役割を選び「演じる」そうなんですね。そうして「演じた役割」は、同時にその人本人の良さとしても育つし、本人を縛る鎖にもなる。なので、自分の良いところは肯定しつつ、縛っている鎖を外していくプロセスをワークを通じておこなうのですが、読み終えたあと、「演じる」ということは、必ずしも悪いことばかりではないのだな、という印象が残りました。たとえば「優等生」は勤勉な努力家であったり、「お世話やき」は神経がこまやかで気配りができる、とか。
で、「演じる」というキーワードからもう一冊の、平田オリザ著「わかりあえないことから」のことを思い出して、久しぶりに読み返してみました。こちらは劇作家・演出家である平田オリザさんが、演劇を切り口にコミュニケーション教育に携わる過程で感じたことをまとめられていて、非常に面白い一冊なんですが、前回読んだときはあまり印象に残っていなかったこの一節に、今回ハッとさせられました。
この「いい子を演じる」という問題と、私は一〇年以上、各所で語り、書き連ねてきた。その中でもショックだったのは、秋葉原の連続殺傷事件の加藤智大被告の発言だった。報道によれば、犯行前、加藤被告は、携帯サイトの掲示板に、以下のように記していたという。
「小さいころから『いい子』を演じさせられてたし、騙すのには慣れてる」
私は、「演じる」ということを三〇年近く考えてきたけれど、一般市民が「演じさせられる」という言葉を使っているのには初めて出会った。なんという「操られ感」、なんという「乖離感」。
「いい子を演じるのに疲れた」という子どもたちに、「もう演じなくていいんだよ、本当の自分を見つけなさい」と囁くのは、大人の欺瞞に過ぎない。
いい子を演じることに疲れない子どもを作ることが、教育の目的ではなかったか。あるいは、できることなら、いい子を演じるのを楽しむほどのしたたかな子どもを作りたい。
「わかりあえないことから」(P.220)
まだうまく言語化できないのですが、この2つは共通点があるような気がしていて、ずっとモヤモヤしています。「演じる」ってなんとなく「うそをつく」みたいなイメージがあったのですが、そればかりではない。そもそも、普段から誰だって何かの役割を演じているし、演じたほうが、うまくいきときもありますよね。
私たちは、多様な社会的役割を演じながら、かろうじて人生の時間を前に進めていく。そんなことは、みな知っているはずなのに、子どもたちには、「本当の自分を見つけなさい」と迫る。それは大人の妄想だろう。あるいはこれも、形を変えたダブルバインドと言えるかもしれない。
科学哲学が専門の村上陽一郎先生は、人間をタマネギにたとえている。タマネギは、どこからが皮でどこからがタマネギ本体ということはない。皮の総体がタマネギだ。
人間もまた、同じようなものではないか。本当の自分なんてない。私たちは、社会における様々な役割を演じ、その演じている役割の総体が自己を形成している。
「わかりあえないことから」(P.219)
この一文は、とてもさっぱりとした明るさがあって良いな、と思います。
誰かに何かを「演じさせられている」と感じるときには、息苦しさやつらさを感じますが、主体的に演じてサバイブできるのであれば、それだって生きていくためのひとつの方法です。人生100%本音で生きていくのは疲れるし、そもそも、本音なんて自分自身にもわからないことだってあるわけで、だったらもう「本当の自分」なんて見つかるもんかとポーイと投げ捨てて、「演じる自分の総体が自分で、どの自分も、自分だ!」と思って受け容れてしまうのは、とても気持ちがよさそうです。
ということで、「誰かに強いられて、何かを演じる必要はない。そんなことしなくたって、あなたはあなたのままで素晴らしい」という視点と、「本当の自分は誰だ、と思い悩む必要なんてなく、『演じている』と思ってしまう自分自身も本当の自分として受け容れて、一緒に生きていけばいい」という視点、両方を持ちながら、自分がどうやったら楽に、心地よく、快適に生きていけるかを微調整していくのがよさそうだなって思ったのでした。
読み終えた本が時間を経てまた違う視点をもたらしてくれるのは、本当に良いですね。新書は割とすぐに誰かにあげたりしてしまうのですが、この本はなんとなく手元に残しておきたいと思っていたので、初見のときから何か感じる部分があったのかもしれません。また読み返してみたいと思います。
久しぶりの更新となりましたがわたしは元気です。気づけば3週間も書いてなかった!いけませんね。またちょこちょこと再開していきたいと思いますので、どうぞごひいきに。
今日はそんな感じです。
チャオ!
わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書)
- 作者: 平田オリザ
- 出版社/メーカー: 講談社
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Kindle版で買い直そうか検討中です。
- 作者: アスク・ヒューマン・ケア研修相談室
- 出版社/メーカー: アスク・ヒューマン・ケア
- 発売日: 1997/03/01
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本自体はページ数少なめで薄いのですが、中身は濃かったです。おすすめ。