インターネットの備忘録

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【読了】「別海から来た女」/「毒婦。」木嶋佳苗裁判記2作

首都圏連続不審死事件・木嶋佳苗被告を追ったルポ2つ。


別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判

別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判

毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記

毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記


事件そのものは「結婚詐欺容疑で逮捕された女の周りで不審死が相次いでいることが判明し、殺人容疑として再逮捕された」というものなのだけれども、逮捕された本人の容姿や詐欺で得たお金の金額、公判中のやりとり(セックスについての言及や被害者についてのコメント)が異様で、ワイドショーの話題をさらいました。
もともとネット上のまとめを読んだりして興味はあったのと、傍聴中の北原みのりさん(日本で初めて女性だけで経営をはじめたセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表)が意外なほど感情的なTweetをされていて気になっていました。
余談ですが「ラブピースクラブ」では茶屋ひろしさんのコラムが特に好きです。

事件そのものの不思議さ

34歳結婚詐欺女テンプレ@ ウィキ
http://www24.atwiki.jp/matome3435/

事件が報じられたあと見つけたまとめがあったので、読んでみたところ、膨大な量のブログ・つくれぽに驚きました。
容疑者のブログがまだネット上にあって、しかも自分から見ても身近なCOOKPADでつくれぽまで残してる。年代的にもおかしい話ではないのですが、それでもなんとなく異様に感じられました。
しかも、自分のブログに市販品や他人が作ったお菓子の写真を「自分で作った」ことにしてアップロードしていたこと、その件数が尋常ではない量だったことにも驚きました。(同時に、まとめを作られた人びとの執着にも驚きました)
作りこんだブログで自分像を作り、それをエサに結婚詐欺をした、という手口もなんというか「言われてみれば、ありそう」な内容でした。

男女それぞれの裁判記

ルポ的なものはあまりたくさん読んだことはなかったのですが、この裁判記で男女それぞれの目線から記したものがほぼ同時期に出るということで、興味を惹かれました。少し間があいてしまいましたが、購入しそれぞれを読了したら、この不思議な事件はどう見えるのかなと思ったこともあります。


別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判

別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判


「別海から来た女。」は裁判のことよりも、木嶋佳苗自身がどういった生まれ育ちをしてきたか、について細かく書かれています。北海道・別海町という特殊な土地柄のこと、地元では名士であった祖父のこと、父と母のこと、きょうだいについて。
事件についてよりも、「なぜこんな人間が生まれたか」を筆者が知りたいと求め、様々な場所と人に会って知った情報をまとめてあります。


毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記

毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記


「毒婦。」はむしろ裁判を傍聴していく過程で、筆者が木嶋佳苗について見たこと感じたことを中心に描かれています。服装や髪型や、被告の体型、声、話し方、持っていたハンカチの色。事件そのものからみると枝葉末節に感じられることを、筆者の日記のような生々しさで書き留めてあり、裁判が進めば進むほど、ますますわけが分からなくなってくる、という心境を追体験できた印象です。

間接証拠と裁判員制度

別の視点で気になっていたのは、直接証拠がないまま裁判が進んでいたこと。
間接証拠のみの裁判員裁判で死刑は出るのか、と気になっていたのですが、最終的には、直接証拠はないまま死刑判決が下されました(弁護側は即日控訴)。


決定的な証拠がないため苦戦を強いられることになった検察側が、あらかじめ裁判員たちへ例示したという「雪の朝」の表現のくだりが印象に残りました。

「雪が降ったことをご想像ください。みなさんが夜寝る前に、窓の外を見ると、星空が広がっている。ところが夜が明けてもう一度窓の外を見ると、一面の雪化粧だった。いつ雪が降ったのか。これはみなさんは見ていません。けれど、直接雪が降った場面は見ていなくても、みなさんは夜中に雪が降ったということがわかります。これが間接証拠による認定です」

「みなさんが寝ている間に雪が降った。でも抽象的な可能性としては、夜寝ている間に、誰かがトラック何台もの雪を積んできて、家の周りにばらまいたという可能性もあるわけです。もちろん人工スキー場のような特殊な事例であれば、そういうことはあり得るかもしれない。けれど、一般の市街地や住宅街でそのようなことをする必要はまったくないし、実際にそんな例はないと思います。
つまり、健全な社会常識、みなさんがお持ちの社会常識に照らして合理的かどうか、この点で判断していただきたいと思います」

別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判

別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判


引用「別海から来た女」


確かにこの事件では「どこをどう見ても、やったのはこの人でしょう?」と思える証拠がたくさんありました。
しかし被告は「知りません」「わかりません」と主張。雪が降ったのは事実だし自分はその日に雪を積んだトラックを運転していたけれども、その場所に雪が降ったことそのものについて、自分は何も知らないし関知していない、という、名探偵コナンもびっくりの無理筋な主張を崩しませんでした。


読み進めていく最中、何度も「これどう見ても被告が犯人じゃないの?」と思える証拠がたくさんあり、同時に「とはいえ絶対的な証拠はまだ出ていない・見つけられていないんだな」というもどかしさを感じました。
そして下された死刑という判決。たとえばわたしをとても憎んでいる人がいて、その人が、似たような状況を作ってわたしを陥れ、裁判員裁判にかけられた場合、「絶対にやっていない」と主張し、これという直接証拠がなくても、死刑にされてしまう可能性がゼロではない、と思えてゾッとしました。
もちろんそれ以外にも被告の異常性を示すものが多くあり、闇雲に有罪にされるわけではないので、極端な例なのですが…。


この2冊を読み終えて、100日も裁判所に通うことを強いられた裁判員たちの負担の重さ、それぞれの立ち位置から見た被告人への憎悪、もっというと、北原みのりさんについては、木嶋佳苗への強い感情移入が感じられました。
「『ブスだから』騒がれる」「『ブスだから』気になる」「『ブスなのに』結婚詐欺をして、安くないお金を手に入れた」『デブでブスなのに』etc…といういろんな枕ことばとともに語られる本件ですが、何かを否定するときってその「何か」を強く意識していることでもあるわけで、なんとも不気味です。


「毒婦。」では、筆者が被告について話したときの、上野千鶴子さんの言葉が書かれています。

「援交世代から思想が生まれると思っていた。生んだのは木嶋佳苗だったのね」

まさに世代どまんなかである自分からすれば「一緒にしないでよ!」と叫びたくなった言葉ですが、確かにそういった面も大きかった事件なのかもしれない、と感じました。


もっといろいろまとめたい感想もあるのですが、今日はこのへんで!

”史上最強の女犯罪者” 『別海から来た女』 - HONZhttp://honz.jp/11953

[書評]毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記(北原みのり)|極東ブログhttp://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2012/05/100-6897.html