インターネットの備忘録

インターネット大好きな会社員がまじめにつける備忘録です。

「やっぱりアイツはいい奴だ」/「向田邦子の恋文」読んだ

読みました。

向田邦子の恋文 (新潮文庫)

向田邦子の恋文 (新潮文庫)

 

 切ないというか寂しいというか、きっぱりとした気持ちになる一冊。

 向田邦子さんは脚本家・エッセイストとして活躍し、旅行中の飛行機事故で夭逝された女性で、憧れの人です。お生まれになった世田谷区若林、そして杉並区天沼、奇遇なことにこの2つの土地いずれもわたしも住んだことがある街で、勝手な親近感を抱いています。独身で猫を飼っている、という共通点もありますしね。料理上手のおいしいもの好きとしても知られ、わたしが携帯の写真フォルダに「う」という名前をつけておいしいものの写真を保存するようになったのは、向田邦子さんの影響でした。彼女は「う」と書いた抽斗に、おいしいものの写真やパンフレットをしまっておいたのだそう。

そんな彼女の妹さんが書かれた、向田邦子さんの秘められた恋についての短い本です。彼女から恋人であったN氏への手紙、N氏の日記が第一部で、第二部では妹さんの視点からみた向田邦子さんについて描かれています。
好奇心旺盛で日々の暮らしの楽しみを見つけるのがとても上手な人、というイメージでしたが、彼女が書いた恋文と、妹さんから見た向田邦子さん像はまた違っていて、ああ、光があるところには必ず影があるのだな、と感じずにいられませんでした。長女として家を支え、妻子ある人の心の支えとして世話をし、楽しませ、彼が自死を遂げる最後まで守ろうとした。とても強い人だと感じますが、他人を寄せ付けない印象もあり、絶対に開かなかった扉の奥にある深く暗い何かが彼女の創作の源だったのかもしれません。

そんな彼女が書く恋文は愛とユーモアに満ち溢れていて、おどけたりすねたり、相手を気遣う優しい言葉が並びます。

彼への手紙の中の一文。
飼い猫が自分の不在を寂しがっているようだ、と書いたあとに

やっぱりアイツはいい奴だ。誰かさんみたいに、こなくても平気だよ、なんて、ひどいことはいわないもん。

とあり、可愛らしさと愛情のこもった美しい言葉だと感じました。

 妹さんとの関係は一方的に頼られる非対称なものであったようですが、彼女が子供の頃、妹さんからナンキンマメをもらったことがあり「あのときから、あんたのこといいやつと思っているのよ」と言葉をかけるエピソードが印象に残りました。「いい人」「いい子」「優しい人」ではなく、「いいやつ」という表現がとても素敵ですね。また、巻末のあとがきが爆笑問題太田光さんというのが意外でしたが、彼は向田邦子さんのファンだったんですね。知らなかった。尊敬を感じる真摯な文章だと思いました。

 短い本なので、またすぐ読み返すような気がしています。最初の一読は、恋文とエピソードから描かれる向田邦子さんの姿に、うすはりのグラスのようなキンとしたあやうさを感じてしまい、胸が苦しくなって、じっくりと読むことができませんでした。この感情の整理がつくまで、もう少し時間がかかりそうです。

 

今日はそんな感じです。
チャオ!