朝の電車にはいろんな人がいて、でも一定の共通点を感じさせる何かがある。それはたぶん学校や職場へ「向かう」という目的がおおよそ同じ、というのと、ある程度は自分を抑制して共同生活の中になじむための装いをしているからなのかなと思うときがある。
ともあれ朝の電車にはいろんな人がいる。冬のコートは一様に暗い色合いが多いけれど、その首元にどんな巻き物を合わせるかで、その人の人となりがほんのり浮かび上がっているような気がする。
ポールスミス風のマルチストライプのマフラーを巻いたサラリーマンはマスクをして眉間にしわを寄せ目をつむっている、バティック柄のストールをふんわりと巻いた女性はメガネ姿で姿勢がよくスマートフォンではなく文庫本を読んでいる、毛足の長い黒いファーの小柄な年配女性はダウンコートもブラックで全身をシックにまとめていて、どことなくただものではない感じだ、ふたり並んで口を開けて寝ている女子高生の首には赤いチェックのマフラー、右側は赤をベースに緑と黄色、左側は赤をベースに白と青、同じ赤チェックなのに個性が違って可愛らしい、クリーム色をしたもこもこファーのスヌードを首にかけた女性はさっきからひっきりなしにスマートフォンの画面を見ていて、誰かからの返信を待っているのかもしれない、ドア脇のバーに捕まる少年はフリース素材のスヌードで、くしゃっと首にかけているせいで裏のアイボリーと表のスカイブルーが半々に見え、思いもよらず素敵な感じになっている。見ている場所は全員違うけれど、電車の窓から射し込む朝日が頬を明るく照らしている。もちろんわたしも、その中のひとりだ。
みんなこの次のターミナル駅で散り散りになって行く人たちだけれど、この瞬間にしかすれ違わない人たちだけれど、みんなどうか、今日1日が心穏やかでありますように。
いってらっしゃい。
いってきます。