インターネットの備忘録

インターネット大好きな会社員がまじめにつける備忘録です。

わたしの好きな男の声の話

クタクタに疲れて駅に向かいながらイヤフォンを取り出して、耳に入れスマートフォンにジャックを差し込み再生ボタンをタップすると、好きな男の声が流れてくる。どこが好きとか何がよいとか、まったく説明ができなくて、ただ流れてくる声の振動が鼓膜を震わせるのを感じている。音の振動は空気を伝わり耳から頭の中へ、身体の内側に入ってきて、あたたかい手のひらで優しく撫でられているような気分になる。わたしの好きな男の声は、わたしにそう思わせてくれる声だ。

わたしは父の声を知らない。発声をせず会話をする父の声を、今までもこれからも知らないまま、想像の中で探している。声のイメージはない。ただ、父は自分のことを「ぼく」と呼ぶ。乱暴な、汚い言葉は使わない。「お前」と呼ばれたことは、たぶん一度もないと思う。そういう優しい表情を、わたしは好きな男の声に探す。

声の表情に共通点を探しているうち、その音でわたしの名前を呼んでほしいと思う。知らないからこそ特別な声があって、知っているからこそ特別な声もあって、そのどちらも、わたしの内側で豊かに響く。そういう声の響きは、わたしの全身を包んで優しく震わせ、安心を与えてくれる。そういう声がわたしの名前を呼ぶのを、わたしはいつも待っている。

夜、部屋の電気を消してベッドに横たわる。目をつぶり、聞こえるその声に耳を澄ませる。耳だけの存在になったような気持ちでその音を聞く。鼓膜を震わせるその声の表情をつぶさに読み取りたくて、暗闇の中でさらに目を閉じ、感覚を尖らせる。わたしの名前を呼んでほしい。そう願いながら、じっと耳を澄ませている。

JERA [with 別所和洋 & 大谷能生]

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結局わたしは、どこまで行ってもファザコンなんだな、と思った話でした。