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インターネットの備忘録

インターネット大好きな会社員がまじめにつける備忘録です。

言葉になる前の世界

 タイトルは入江陽さんの「わがまま」の歌詞から。


入江陽 - わがまま

 今回は創作じゃないので先に宣言しておきます。わたしの「はせおやさい」という名前?ペンネーム?ハンドルネーム?を付けてくれた昔の恋人の話です。この呼び方はわたしが考えたものではなく、ある日わたしが自分のMacからウェブメールにログインしようとして「hase0831」と入力したのを見た彼が「お前のID、0831、って、”おやさい”って読めるじゃん、かわいいな」と言ってくれたのが「はせおやさい」のきっかけでした。

いきさつは忘れたけれど、彼との思い出について話をする機会があって、そしたらいろんなことを思い出してしまって、ストロボライトのようにフラッシュバックしてとても気持ちがいいので、それを忘れないうちに書こうと思います。なので面白いかとかは二の次にして、一気に書きます。

 

 彼はアルバイト先の同僚で、スケボーが好きで、音楽が好きで、細身の濃いデニムにスケートシューズ、やや大きめのTシャツに大きなリュックを背負った、痩せ型で背が高くて顔が小さくて色白でくせ毛で華奢な首を持つ、暇さえあれば、よく寝ている人でした。彼ともう1人の男友達と、3人でよくつるんで遊んでいました。3人でチームを組んでデザインフェスタに出店したり、見よう見まねでキャバレーの跡地を借りて、バンドを入れたオールナイトのパーティをやったり、やってみたいと思ったことは、全部やりました。プログラムが書ける友人と、デザインができる彼と、とにかく人を連れて来て企画を推進するのが得意なわたしの3人で、バランスが良かったせいもありました。

深夜のファミレスでグダグダしたり、原付と車で集合して、夜通し遊んでいましたが、ツルッと転んでしまったように彼とわたしが恋人になりました。とはいえ、3人の関係は変わらず、本当にいろんなことを試しては、たくさん失敗しました。

彼とは名目上、恋人となりましたが、感覚的には一番の親友であり、音楽も文学も映画も、なんでも一緒に共有しました。わたしは彼の価値観が、センスが、その嗅覚がとても好きで、憧れでした。悪友のように良い面も悪い面も見せあって、悪いこともたくさんして遊びました。

ただ、20代前半の幼い恋愛だったせいか、相手との距離感の取り方はひどいもので、お互いがお互いに深い傷をつけ、血が溢れるその傷をこすり合わせて癒着させようとしているような、それぞれが別の肉体を持っていることをいつも腹立たしく感じているような、めちゃくちゃなやり方でした。

喜怒哀楽も、愛も憎悪も、ぜんぶが詰まった鮮烈な恋でした。

でも、いま振り返ってみると、あれは本当に恋だったんだろうか、あれは恋と呼んでよかったのだろうかと分からなくなります。大切にしあっていたつもりでしたが、本当に横暴で身勝手でわがままをぶつけあった関係で、恋とか愛という単語から連想される、甘やかで優しい時間は、数えるほどしか記憶にありません。でも絶対に、彼としか作ることができなかった関係でした。

あの頃、まだ何者でもなかったわたしと、何者かになりたかった彼が、好奇心の赴くままにムチャクチャをした時間と経験がなければ、今のわたしはないだろうと思います。好きだと思うもの、これだと思うものを見つけたら最短距離でまっすぐに向かっていって、両手でしっかりつかみとる今のやり方も、彼が教えてくれました。自分の中に激烈な「女」がいるというのを教えてくれたのも、彼でした。今、あそこまで強烈に自分の中の「女」を感じることは、もうありません。彼との関係が終わったとき、自分のそういった部分も死んだような気がします。

当たり前のように結婚する予定でしたが、わたしが逃げました。心底優しくてのんびり屋で、少しとぼけているけれど、ドラムを叩くのがとても上手な新しい恋人ができたからです。突然すぎる心変わりに、刺されたり殴られたりすることも覚悟しましたが、そんなことは起きず、わたしと彼の関係はぶっつりと終わりました。

 

 その人は今どうしているの、と聞かれて、思わず「たぶん死んでるんじゃない」と口にしました。外国で会社を作ったらしい、という話は聞いていました。プール付き、メイド付きの戸建てに住んで、移動は全部タクシーが当たり前の生活で、マジでもう日本に帰る気がおきないわ、と笑っていたのを知っていました。そうやって調子に乗った彼が、海外でめちゃくちゃに仕事をし荒稼ぎしまくって、トラブルに巻き込まれ、うっかり死んでいたら面白いなあ、と思えたのです。それが一番彼らしく、しっくりくるなあ、と思いました。

 

そんなふうに彼の死を思うなんて、やっぱり本当は恋じゃなかったのかもしれませんね。ただ、くっきりと深い何かをわたしの中に残していった、鮮やかな時間だったことに間違いはありません。そのことを、なぜ最近までぼんやりと忘れていたのか自分でも不思議なのですが、こうして思い出せたのは喜ばしいことなのだろうと、書き残すことにしました。

 

急に思い出すって、ちょっと怖いですね。本当に死んでるんじゃないかしら……。それでは推敲なしで、このまま公開します。

 

今日はそんな感じです。
チャオ!

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