インターネットの備忘録

インターネット大好きな会社員がまじめにつける備忘録です。

猫は、埋める。

 家に猫を迎えて2年が過ぎた。もうすこし正確に言うと、2年と半年。
身体が小さく弱そうだった猫も、今となってはすっかり元気に日々を過ごしている。

 猫を迎えたときは二人暮らしだったが、半年ほどで一人暮らしになり、猫とマンツーマンの生活が始まった。なので、猫マンツーの期間としては、やっぱり2年ということになる。一人暮らしで猫を飼っているんです、というと、家に生き物がいて、ひとりじゃ世話をするのがたいへんでしょう、と言われることもあるけれど、そうでもない。何をどう理解してくれているのか、壁をひっかいたり良からぬ場所で爪を研ぐこともなく、食卓など登ってはいけないと言っている場所には登らない。知らぬが仏、なのかもしれないが、少なくとも頭を悩ませるような問題行動は今のところなく、平和的な同居生活が送れている。

 とはいえ、長期の旅行などは気が引ける。せいぜい長くて2泊3日、かかりつけの獣医が猫だけはペットホテルとして受け入れてくれるので、そちらへ預けて出たが、やはり道中、気がかりではあった。面白いなと思うのが、旅行に限らず、外出時間が長くなった日と、ちょっとそこまで……ですぐ帰宅したときの対応が違うこと。旅行から帰ってきて、ペットホテルから引き取った猫を家に放ち、さあ自由に遊ぶがいいと思いながら汚れものの始末をしていると、足元にまとわりつきにゃあにゃあとよく鳴いている。めったに甘えてこないため非常にレアなイベントなので、こちらは大喜びで応対する。残業が立て込んだり、外出の予定が続いてあまり家にいる時間が取れないときなどもそうなるので、マイペースに見えるようでも、やはりひとりはさみしいのだなあと思う。
かと思うと、近所のスーパーに出たついでにコーヒーなどを飲んで、ちょっとのんびりしてから帰る程度の別離だと、玄関をあけ「ただいま」と声をかけても、なかなかこちらへ出てこない。部屋の奥から「にゃあ」とだけ声をあげ、伸びとあくびをしながら悠々と出迎えに来るか、横着をして寝ている場所からそのまま動こうとしないときもある。その気まぐれがなんだか人間みたいだなと思うけれども、「猫は飼い主を人間だと思わず、自分と同じ種族(もしくは召使い)だと認識している」という説を聞いて合点がいった。

 さて猫との同居生活で思うのは、猫は「液体」のようないきものだ、ということ。抱き上げたり膝に乗せたあと滑り降りていく様子は、なんだかまるで体積の重い液体に似ている。水銀とか。実家では大きな犬を飼っていたけれど、犬はなんというか、「硬い」。個体の硬度が高い、とでもいうのだろうか。犬は抱いてもあまり変形する感じがしないが、猫はクニャクニャと自在に変形する。こちらがぎゅっと抱えても、腕の隙間からぬるりと逃げて、離れたところから「にゃあ」と鳴く。近づくと逃げる。追わないと、寄ってくる。そしてまた抱き上げるとぬるりと腕からこぼれ落ちていく、という感じ。

飼い始めは、自分の腕の中でその毛並みとぬくもりを実感したくて、ぬるぬる逃げていくのを追ったりもどかしく思ったが、もはや慣れた。こちらのタイミングでは抱かせてくれないことがよくわかったので、人間側がお猫様に合わせ、ご機嫌を伺いながら共生していくしかないのだなと思っていたが、あるとき気付いたことがある。

猫はわたしが居室で読書をしていると、ぴたと尻をつけて隣に座る、いつも。そこが猫の定位置になっているので、わたしがおじゃまして腰掛けているかたちになっているせいかと思っていたが、先日、長時間かけた煮込み料理を作るため、半日ほど台所で過ごした日があった。煮込んでいる火の面倒をみるため、台所に椅子を持ち込み、とろ火で煮込む鍋を適度にのぞき込みながら、隣の空いたコンロで湯を沸かす。沸いた湯でコーヒーを淹れて飲み、椅子に腰掛けて本を読んでいると、なぜか猫が足元にいる。香箱座りの状態で、とろとろと寝ているようだったので、台所にいるなんて珍しいなと思ったが、調理中なので触れるわけにもいかず、そのままにしておいた。

仕上がった煮込み料理の火をとめて、読んでいた本を読み切ろうと居室に移動し、そのまま読書を続けていると、また静かにやってきて、座っているわたしの太ももに、自分の尻をぴたとつけ座った。あれ?もしかして、あとを追われてる?そう思って何度か場所を移動してみると、やはり、ついてくる。

 自分が抱きたいときに抱かせてもらえなくて、呼んだってたまにしか寄ってこないし、猫って冷たいんだわ、わたしのことなんてきっとどうでもいいんだわ、とばかり思っていたけれども、知らぬ間に猫はわたしの生活の隙間を、こういうふうに自身の身体で埋め、じんわりと暖めていてくれたのかな、と思うと、気づいていなかった可愛らしさに感情が昂った。思わず読んでいた本を投げ出して、猫を両手で抱きしめようとしたところ、またぬるりと逃げて身体を離し、こちらを睨んで「にゃあ」と鳴かれた。

まあ、そうなるよね。

 

 こんな感じで、これから先の10年、15年、一緒に過ごせたらいいなと思っています。
今日はそんな感じです。
チャオ! 

町田康さんの猫好きっぷり、とてもすてき。