もう、もう、最高でした。
旅チャンネル「居酒屋紀行シリーズ」で知られる太田和彦さんの、「居酒屋論」集大成的な一冊。
店での時間の過ごし方やメニュー選びなど、繊細にこだわった居酒屋での楽しみ方、なぜ居酒屋評論家になったかの思い出話、いいお店の探し方、そして何より、震災地の居酒屋を訪ね、そこに集まる人たちを見つめた眼差しの優しさ!大人の男性はこうあってほしい、という感じです。幅広い知識、そして観察眼と分析で綴られる紹介は、文章を読んでるだけで「ああ…ここ行きたい……」と思わされます。もちろん個々人の好みもあるので、氏の提案する楽しみ方に異論を持つ人もあるかもしれませんが、自分の好きなお酒と居酒屋を探し求めて訪ね歩き、自分のスタイルを確立し、楽しみ方を大切に育ててきたその姿勢のかっこよさは、本当にしびれます。
わたしも「ここは」というひみつの居酒屋さんを何店か持っていますが、そういうお店を見つけて、しょっちゅうでなくても足を運び、いつまでも変わらない良さを実感したり、そのお店の好きなところを見つけて増やしていくうれしさ、みたいな楽しみを持てるのは、人生の喜びだなーと感じます。そういうのを誰かと分かち合うのも、すごく楽しい。
また、第五章「あのとき、何が起こったかーーーいつもそこに居酒屋があった」は、読んでいて涙が止まりませんでした。阪神淡路大震災、そして東日本大震災の現場で、人が集まってお酒を飲み、触れ合うことで生まれる希望。そこに行けば誰かがいて、お酒を酌み交わせる心強さ、その場所としての「居酒屋」の存在価値、みたいなものをひしひしと感じました。
大変なとき、つらいときだからこそ酒は必要とされるという光景を見て「居酒屋の社会的な価値」を私は知った。
それでも、だからこそここに来ている、大災害に心細さがつのり、誰でもいい他人の顔を見たい、人同士で集まりたい、という心情が十分私には感じられ、不安なときにこそ、集まる場所としての居酒屋が必要とされる実感を強く持った。
ともすれば「こんな大変なときにお酒なんて!」と言われかねない状況だったかと思いますが、日本全国の居酒屋を訪ね、人を、実際を知っているからこそ、書けたことなのではないかなと思います。もうわたし、今この文章をタイピングしながら本文を思い出して泣きそうなくらい、心を揺さぶられるものがありました。
優しく穏やかだけれども意思の強い、ちょっと頑固そうな太田和彦さんの口調を彷彿とさせる文体で、まるで、居酒屋のカウンター席に並んで座り、しみじみと太田さんのお話を伺っているような気持ちになれる一冊。はー、太田さんみたいな人と居酒屋デートがしたい。ちなみにいま読み返し二巡目に入っておりまして、載ってるお店めぐりの計画を立てようと目論んでいます。読み返しやすいのでKindle版で買って良かった。
今日はそんな感じです。
チャオ!
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